Bi-2212ソレノイドコイルのクエンチ特性

神鋼 電子技術研究所 :〇長谷隆司、 渋谷和幸、林 征治、 嶋田雅生、小川陸郎、川手剛雄
金属材料技術研究所:木吉 司、 湯山道也、井上 廉、 和田 仁



1.はじめに
 1GHz級NMRスペクトロメータでは、金属系外層コイルのボア内に酸化物系内層コイルを挿入することが提案されている。この場合、これらのコイルの一方がクエンチした場合、他方にも重大な影響を及ぼすことが懸念される。従って、クエンチを生じるための最小擾乱エネルギーや常電導伝播速度等の物理量を定量的に把握することが重要である。これまで、酸化物超電導体の場合、Agシーステープ線材1)やそれを用いたパンケーキコイル2)において上記の値を評価することが試みられてきた。しかし、酸化物系内層コイルとして本命視されている、低アスペクト比線材を用いたソレノイドコイルでのクエンチ特性については報告が無かった。そこで今回は、4.2KにおいてBi-2212ソレノイドコイル単体にクエンチを生じるための最小擾乱エネルギーと、線間方向の常電導伝播速度を評価した。

2.実験方法
 外径が1.3mm全長が19mのダブルシース91芯Bi-2212丸線材を用いて、ソレノイドコイルを製作した。コイルの最外周の2ターン分にニクロムヒーター線を巻き付け、その外側にエポキシ樹脂と断熱用粘土を塗布して固定した。さらにコイル上面に、最外層から1層おきに電圧端子対を取り付けた。液体ヘリウムに浸漬したBi-2212ソレノイドコイルに電流Iopを通電しながら、ヒーター線により電力P 時間幅ニt の熱擾乱を加えた。擾乱を終了しても、そのエネルギーがある値よりも大きい場合には、測定端子間の電圧が上昇しクエンチが生じた。この時の擾乱エネルギーPニt とクエンチの有無の関係、および線間方向の常電導伝播速度を各測定端子対間の電圧により求めた。

3.実験結果
 図1には、Iop= 80 Aの時の擾乱電力P および時間幅ニt とクエンチの有無の関係について調べた結果を示している。1 sec≦ニt ≦3 secの範囲において、再現性良くPニt ≧180 Jの領域でクエンチが生じた。すなわち、この時のクエンチ最小擾乱エネルギーは180 Jである。また、この時の線間方向の常電導伝播速度は約2 mm/secであった。コイルの通電電流が大きくなると、クエンチ最小擾乱エネルギーは低下し、常電導伝播速度は上昇する傾向を示した。


図1 クエンチの有無と擾乱電力および擾乱時間との関係

[参考文献]
1) 金 他:低温工学, Vol. 31, p. 379 (1996).
2) J.W.Lue et al.:IEEE Trans. Appl. Super., Vol. 5, p. 230 (1995).