1GHz級NMRマグネット用Nb3Sn超電導導体の開発
-高臨界電流密度Nb3Sn導体-

神鋼 電子技術研究所:○宮崎隆好、枩倉功和、宮武孝之、嶋田雅生
金属材料技術研究所:木吉 司、小菅通雄、伊藤喜久男、井上 廉、和田 仁


1.はじめに:
1GHz(約23.5T)級NMRマグネットに用いられるNb3Sn導体の開発において、高磁場でのoverallの臨界電流密度(Jc)の向上が重要な課題である1)。現在、金材技研で進行中の1GHz級NMRマグネット開発プロジェクトでは、平成8年度の試作導体の目標として21T、1.8Kで100A/mm2以上のJc、20以上のn値を設定した。ブロンズ法Nb3Sn線材のJcを向上させるために、ブロンズ中のスズ濃度を増加させた例が報告されている 2, 3)。しかし、銅へのスズの固溶限が15.8wt%であることから、多くは14.5wt%程度以下のスズ濃度が採用されている。我々は上記仕様を満たすために、スズ濃度15wt%のブロンズマトリックスをもつ導体を工業規模で試作した。ここでは、この導体の特性と熱処理条件、ミクロ組織、Hc2との関連について考察する。

2.実験:
試作導体に用いたブロンズの組成は、Cu-15%Sn-0.3%Tiである。この導体を1.75mm×3.50mmの平角形状に加工した。フィラメント数は25099本、銅比は0.3である。この導体に650℃から750℃の熱処理を施し、4.2Kおよび1.8KでのJcを測定した。また、高分解能電子顕微鏡(FE-SEM)により結晶粒の大きさを観察した。

3.実験結果:
図1に試作導体の4.2K、1.8Kにおける臨界電流(Ic)/overall Jcの磁場依存性を示す。この図より、4.2K、20T以上では熱処理温度が高いほどIc/Jcが高くなることがわかる。また、1.8K、21Tにおいて720℃で熱処理した試料のJcは102A/mm2であり、上記目標値を満たすことが確認できた。このときのn値は49で同じく目標値を達成できた。
SEM観察結果より、低温(700℃)で熱処理した試料の結晶粒は高温(750℃)で熱処理した試料よりも微細であることがわかった。一方、Kramerプロットより求めたHc2は熱処理温度が高くなるほど大きくなることがわかった。
これらのことからから、この磁場領域では結晶粒界によるピンニングよりもHc2の向上がJcの改善をもたらすと思われる。

図1 試作導体のIc/overall Jcの外部磁場依存性

[参考文献]
1) K. Itoh et al., Proceedings of ICEC16/ICMC 1996 (in press).    
2) T. Miyazaki et al., Proceedings of CEC/ICMC 1995 (in press).
3) 宮崎ほか 第55回低温工学・超電導学会公演概要集(1996), p.59.