B1-10
高温超伝導物質線材の最も重要な応用は超伝導マグネットである。Bi-2212やBi-2223のBi系酸化物超伝導物質は高い超伝導転移温度を持つだけでなく、極低温において非常に高い超伝導上部臨界磁界を持つという特色がある。Bi系酸化物超伝導物質のこれらの特色を生かして、強磁界発生用あるいは冷凍機冷却型のマグネットへの応用が期待されている。上部臨界磁界の制約のために従来の金属系材料だけでは実現不可能な22T以上の磁界を発生する強磁界発生用超伝導マグネットでは、金属系超伝導材料を使用したマグネットと酸化物超伝導材料を使用したマグネットを組み合わせたシステムのよってのみ実現可能である。近年、酸化物超伝導材料の線材開発は大きく進展し、強磁界中での特性を改善するための様々な作製手法が提案されている。本論文では、Bi-2212/Ag多芯テープ線材を用いて強磁界発生用に作製したマグネットの磁界中励磁試験結果について報告する。試料は、ワインド&リアクト法を用いて作製したダブルパンケーキ積層型の小型マグネットである。マグネットの緒元は、高さ40mm、外径90mm、有効内径30mm、総ターン数354、線材総長60m、コイル定数6.8mT/Aである。このマグネットについて、4.2K、種々の磁界中での特性評価を行った。磁界中励磁試験は、強磁界研究所(グルノーブル、フランス)の大口径ハイブリッドマグネットシステムを利用して行った。20Tの外部磁界中では、臨界電流は140A(導体電流密度110A/mm2)であり、このときの酸化物マグネットの発生磁界は0.98Tであった。酸化物高温超伝導材料を用いて、直径30mm程度の空間に発生させた磁界としては世界最高レベルであり、今後の実用化への大きな可能性の実証となった。