“低温工学会”から“低温工学・超電導学会”に架ける橋—低温工学会長に就いて−
低温工学理事・低温工学会長/高エネルギー加速器研究機構
春山 富義
手元に1988年3月号の低温工学誌巻頭言があります。低温工学会の発足に関し「低温工学・超電導学会の発展を願って」と題した2代低温工学会長・信貴豊一郎氏によるものです。低温工学会は前年の1987年12月、定款変更を経て正式に発足しました。低温工学協会が設立された1967年から数えて20年目のことでした。様々な議論が収束し、低温工学協会の“なかに”低温工学会が誕生しました。当時の信貴学会長は、超電導技術の目覚ましい発展という趨勢を見抜き、協会活動と学会活動の調和と実質的観点からこれを機に学会名を低温工学から低温工学・超電導学会に変更すべきと考えました。しかし、再三の定款変更の困難さから、低温工学会の“愛称”として“低温工学・超電導学会”を浮上させました。年2回の研究発表会予稿集も、この頃から名称が「低温工学会予稿集」から「低温工学・超電導学会予稿集」(後には講演概要集)に変わっています。
あれから更に20余年が過ぎた今、“愛称”から正式な呼び名に変わります。このたびの社団法人に対する法改正を受け、低温工学協会は“公益社団法人”として申請することを決めました。新しい法人では、協会の中に学会をおくという二重構造を避け、会員の意見調査を踏まえた結果、 組織の名称を“低温工学・超電導学会”とすることにしました。20余年を経て、ようやく信貴学会長の夢が叶うことになりました。低温工学協会、低温工学会という組織名はともになくなります。
このたび、初代大島惠一学会長から数えて13代目の低温工学会長として、会員の皆様から任を託されましたが、公益法人化が順当に進めば、“最後”の低温工学会長となります。学会長は現時点では協会役員の中で唯一、会員の選挙によって決められ、組織図上では、編集、企画、国際交流、教育セミナーの各委員会及び各種研究会を俯瞰する立場にあります。
15代続いた江戸幕府はその終焉時に、外力と内からの変革力によって全く違った時代へと突入していきました。低温工学協会、学会を取り巻く状況は、社会経済状況や法人化といった外的要因と団塊世代会員の定年等の内的要因が絡み、大きな変革を迫られています。学会として、会員の重要な活動舞台である研究発表会を更に充実させること、学会誌による学界と産業界に向けた情報発信の在り方など、これからの学会活動の中心となる事業について中堅、若手世代を含めた議論が始まっています。情報発信の強力な手段としてホームページの重点的整備も歩み始めています。各種の専門委員会、部会、各支部活動を更に有機的に発展させることも重要です。
ところで、最近2年間の研究発表会におけるセッション数を見ると8割が超電導技術関連で低温技術関連は2割程度なのですが、低温技術と超電導技術の相補性について強い意識を持つことが必要です。例えば高温超電導の電力応用では必ず冷却冷凍技術が語られます。超電導機器による効率のメリットは、冷却の非効率性を浮き彫りにします。フランスのサディ・カルノーが180年も前に暴いてしまった冷凍機効率の上限値は厳然と存在します。4Kで1Wの冷凍能力を得るために必要な仕事の理論値は室温で74W、77Kでは3Wです。しかし実際の装置ではカルノー効率を15%程度としても、1W得るために4Kでは500W、77Kでも20W程度の仕事が必要です。ものを冷却するということはこんなにも非効率なのか、と嘆く前に発想を転換してみます。もし、4Kへの熱侵入量をわずかでも改善すると、それは室温で500倍の効果になるという発想です。77Kでも20倍、まさに桁違いの節約です。ここに低温技術を少しでも改善することの意義があります。もちろん、低温を発生する冷凍機の損失を減らす努力については言うまでもありません。効率の向上は超電導機器の社会への広がりを促進します。超電導を社会に根付かせるというモチベーションを得て、低温工学が進展する。その進展により効率が上がった超電導システムの応用が現実味を増す。こうした相互関係の螺旋的展開を推進する集団がこれからの学会なのです。今、“低温工学”会は、幅広く低温技術、冷凍機技術を見直し発展させることで、新しい“低温工学・超電導学会”のための起爆剤になることができると確信します。
激流の中に立ち、“低温工学会”から“低温工学・超電導学会”に橋を架ける、このことこそ会員の皆さんが“最後”の低温工学会長に託された仕事なのだと思います。
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